交通事故におけるお詫び状は、被害者への誠意を示すとともに、適切な事故処理を進めるための重要な文書です。法的責任を適切に認めつつ、円滑な解決に向けた第一歩となります。
書き方の基本ポイント
文書の目的と相手に応じた適切な表現
交通事故お詫び状の6つの核心要素
- 即座の謝罪:事故発生後24時間以内の書面謝罪
- 事故状況の正確な記載:客観的事実に基づく事故経緯
- 責任の明確な承認:自責による事故であることの認識表明
- 被害者への配慮:怪我・損害への心配と気遣い
- 損害補償の確約:保険対応を含む適切な補償約束
- 再発防止の誓約:安全運転への決意表明
必須記載事項の完全チェックリスト
- 発行日付(お詫び状作成日)
- 宛名情報(被害者氏名・住所)
- 事故発生情報(発生日時・場所・状況)
- 事故の客観的経緯(自車の行動・相手車両の状況)
- 自責の明確な承認(過失責任の認識)
- 謝罪の言葉(心からの謝罪表現)
- 被害者の状況確認(怪我・車両損害への心配)
- 損害補償の方針(保険対応・修理費負担等)
- 再発防止への決意(安全運転への誓約)
- 連絡先情報(24時間対応可能な連絡先)
- 保険会社情報(保険会社名・担当者・連絡先)
- 発行者署名(本人直筆署名・押印)
敬語・謙譲語の正しい使い方
交通事故で使用する適切な敬語
- 「ぶつけてしまいました」→「衝突させていただいてしまいました」は不適切
- 「事故を起こしました」→「事故を起こしてしまいました」
- 「すみません」→「申し訳ございません」
- 「大丈夫ですか」→「お怪我はございませんでしょうか」
交通事故特有の用語と説明
- 過失責任:交通事故における法的責任の割合
- 人身事故:人が怪我をした交通事故
- 物損事故:物的損害のみの交通事故
- 示談:当事者間での合意による解決
具体的な記入例
【良い例1】人身事故の場合
令和6年7月15日
田中太郎様
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
この度は、7月12日午後3時30分頃、東京都渋谷区○○交差点におきまして、
私の運転する普通乗用車(ナンバー:品川○○○あ○○○○)が、
田中様の運転されるお車に衝突し、田中様にお怪我を負わせてしまいましたことを、
心より深くお詫び申し上げます。
【事故の経緯】
私が信号のある交差点を右折する際、対向車線を直進してこられた田中様のお車の
確認が不十分で、右折を開始してしまい、田中様のお車の左側面に衝突いたしました。
この事故は、私の前方不注意および安全確認不足が原因であり、
全面的に私の責任でございます。
田中様には、首と腰に痛みを生じさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。
その後のお体の具合はいかがでしょうか。後遺症などのご心配もあるかと存じ、
大変心配いたしております。
【損害補償について】
・お怪我の治療費:私の加入する自動車保険にて全額補償いたします
・お車の修理費:同様に保険にて全額補償いたします
・休業損害、慰謝料等:保険約款に基づき適切に対応いたします
・代車費用:修理期間中の代車費用も負担いたします
【保険会社情報】
保険会社:○○損害保険株式会社
担当者:山田花子
電話:03-1234-5678
既に事故の第一報は済ませており、田中様へ直接ご連絡を取らせていただく
予定でございます。
【再発防止について】
今回の事故を深く反省し、今後は以下の点を徹底いたします:
・交差点での一時停止と安全確認の徹底
・右折時の対向車確認時間の十分な確保
・運転技術向上のための講習受講
・定期的な車両点検の実施
この度は、私の不注意により田中様に多大なるご迷惑とご苦痛をおかけし、
誠に申し訳ございませんでした。一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げますとともに、
何卒寛大なるご措置を賜りますよう、お願い申し上げます。
なお、ご不明な点やご心配なことがございましたら、いつでも下記までご連絡ください。
敬具
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前1-1-1
佐藤一郎
携帯電話:090-1234-5678
自宅電話:03-9876-5432
メール:sato@example.com
印
【良い例2】物損事故の場合
令和6年7月15日
株式会社○○運輸
代表取締役 鈴木次郎様
拝啓 盛夏の候、貴社ますますご発展のこととお慶び申し上げます。
この度は、7月13日午前10時頃、神奈川県横浜市○○区の県道において、
私の運転する軽貨物車が、貴社のトラック(車両番号:横浜○○○い○○○○)に
追突し、貴社車両を損傷させてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。
【事故の状況】
前方を走行していた貴社車両が安全に停車された際、私が脇見運転により
前方注意を怠り、ブレーキが間に合わず追突いたしました。
この事故は完全に私の前方不注意が原因であり、全責任は私にございます。
幸い運転手様にお怪我がなかったとのことで安堵いたしておりますが、
貴社の業務に支障をきたしてしまい、誠に申し訳ございません。
【損害補償について】
・車両修理費:私の加入する自動車保険(対物無制限)にて全額補償
・修理期間中の代車費用:同保険にて対応
・業務遅延に伴う損害:必要に応じて協議させていただきます
【保険会社情報】
△△海上火災保険株式会社
事故対応担当:高橋三郎
連絡先:045-123-4567
既に貴社への連絡を開始しており、修理工場の手配等について
ご相談させていただく予定です。
【再発防止策】
・運転中の携帯電話使用禁止の徹底
・十分な車間距離の確保
・定期的な休憩による集中力維持
・安全運転講習への積極的参加
この度は私の不注意により、貴社に多大なるご迷惑をおかけし、
誠に申し訳ございませんでした。
一日も早い車両の修理完了と業務正常化を願っております。
今後このようなことがないよう十分注意いたしますので、
何卒ご寛容のほど、よろしくお願い申し上げます。
敬具
個人事業主 伊藤美佳
住所:〒220-0001 神奈川県横浜市西区みなとみらい1-1-1
電話:045-987-6543 携帯:080-1111-2222
【悪い例】避けるべき表現
❌ お互い様だと思います
❌ 相手も悪いところがありました
❌ 保険会社に任せますので
❌ たいした事故ではありませんが
❌ 運が悪かっただけです
❌ 急いでいたので仕方ありませんでした
状況別バリエーション
【駐車場での接触事故】
「駐車場内での後退時に、後方確認が不十分であったため、
お客様のお車に接触してしまいました」
【自転車との接触事故】
「交差点での右折時に、自転車で直進してこられたお客様との
安全距離の確保が不十分で、接触事故を起こしてしまいました」
【歩行者との接触事故】
「横断歩道を渡られていたお客様に対し、私の一時停止が不十分で
接触してしまい、お怪我を負わせてしまいました」
法的・実務的な留意点
法的効力と要件
関連法規
- 道路交通法:交通事故の義務規定
- 自動車損害賠償保障法:強制保険による補償
- 民法第709条:不法行為による損害賠償責任
- 刑法第211条:業務上過失致死傷罪
法的リスクの管理
- 過失割合の適切な認識
- 保険適用範囲の確認
- 刑事処分への対応
- 行政処分(免許停止等)への備え
保管期間と管理方法
保管期間
- 民事時効:3年間(人身事故の損害賠償請求権)
- 刑事時効:5年間(業務上過失致死傷罪)
- 保険請求権:2年間(自賠責保険)
管理方法
- 事故関連書類の一元管理
- 保険会社との連絡記録保管
- 医療費・修理費領収書の整理
- 示談書・和解書の適切な保管
保険手続きとの連携
自賠責保険(強制保険)
- 人身事故の場合は必ず適用
- 死亡時最大3,000万円、後遺症最大4,000万円
- 治療費は120万円まで補償
任意自動車保険
- 対人・対物・車両保険の確認
- 弁護士費用特約の活用
- 示談代行サービスの利用
使用タイミングと注意事項
使用すべきタイミング
✅ 事故発生後24時間以内:初回謝罪として ✅ 警察への届出完了後:事実関係確定後 ✅ 保険会社への連絡後:補償方針確定後 ✅ 被害者との初回面談前:誠意を示すため
使用を避けるべきケース
❌ 過失割合が争点:責任分担が不明確な場合 ❌ 重大な人身事故:弁護士相談が必要な案件 ❌ 刑事捜査中:警察の捜査に影響する可能性 ❌ 相手方に弁護士が付いている:直接交渉を避けるべき場合
トラブル防止のためのチェックポイント
- 事実関係の正確性
- 事故状況の客観的記述
- 時間・場所の正確な記載
- 過失内容の適切な表現
- 法的責任の適切な認識
- 過度な責任を負わない
- 保険適用範囲内での約束
- 弁護士相談の必要性判断
- 保険会社との事前調整
- 補償方針の確認
- 示談代行の可否確認
- 連絡先情報の共有
よくある失敗例とその対策
失敗例1:過度な責任負担
- ❌「全て私が悪いので何でも補償します」
- ✅「私の過失による事故として、適切に対応いたします」
- 対策:保険約款の範囲内での約束に留める
失敗例2:事実関係の憶測記載
- ❌「○○だったと思います」
- ✅「○○でした」(確実な事実のみ記載)
- 対策:不明な点は記載しない
失敗例3:感情的な表現
- ❌「本当に本当に申し訳ありません」
- ✅「深くお詫び申し上げます」
- 対策:冷静で品格のある表現を使用
カスタマイズのヒント
事故類型に応じた調整方法
【追突事故】
- 前方不注意・車間距離不足の認識
- ブレーキ操作の遅れについて言及
- 集中力維持の重要性確認
【出会い頭事故】
- 一時停止義務違反の認識
- 安全確認不足の反省
- 見通しの悪い交差点での注意
【右左折時事故】
- 巻き込み確認不足の認識
- ミラー・目視確認の重要性
- 歩行者・自転車への配慮不足
被害者属性に応じた配慮
個人の場合
- より丁寧で親身な表現
- 家族への影響への配慮
- 日常生活への支障への心配
法人の場合
- 業務への影響を考慮
- 企業間の信頼関係維持
- 経済的損失への適切な対応
重傷度に応じた対応
軽傷の場合
- 迅速な治療完了への願い
- 後遺症への心配表明
- 通院負担への配慮
重傷の場合
- 専門的治療への支援
- 長期療養への覚悟
- 家族への影響への配慮
重要な最終チェックポイント
発送前の最終確認
- 法的リスクの確認
- 過度な責任負担の回避
- 保険適用範囲内での約束
- 弁護士相談の必要性判断
- 事実関係の正確性
- 客観的事実のみの記載
- 推測・憶測の排除
- 時系列の正確性
- 保険会社との調整完了
- 補償方針の確認済み
- 連絡先情報の共有済み
- 示談代行の有無確認
緊急時の対応優先順位
- 人命救助(119番通報)
- 警察への届出(110番通報)
- 保険会社への連絡
- 現場記録の作成
- お詫び状の準備・送付
特に重要な注意事項
- 人身事故の場合:必ず警察への届出が必要
- ひき逃げ厳禁:現場を離れることは重大な犯罪
- 飲酒運転:絶対に隠蔽せず正直に申告
- 無保険運転:任意保険未加入の場合は個人負担覚悟
テンプレート書式なので必要に応じて文章を変更してご利用ください。
ファイル形式はWord(ワード)です。下記からダウンロードしてご利用してください。